2009-01-01から1年間の記事一覧

安太多良真弓(あだたらまゆみ)

岳温泉 鏡池に映る安達太良山 陸奥(みちのく)の 安太多良真弓(あだたらまゆみ) 弦(つら)着(は)けて 引かばか人の 吾(わ)を言(こと)なさむ 万葉集 巻7−1329 陸奥の安達太良山の真弓に弦(つる)を着けて引くように 相手の気を引くようなことを…

勝間田の池

勝間田(かつまた)の 池はわれ知る 蓮(はちす)無し 然(しか)言ふ君が 鬚(ひげ)無き如し 婦人(をみな) 万葉集 巻16−3835 勝間田の池は私も知っていますけど 蓮などありませんよ そうおっしゃるあなたに ヒゲがないのと同ように 天武天皇の皇子…

生駒山 (いこまやま)

君があたり 見つつも居(お)らむ 生駒山(いこまやま) 雲なたなびき 雨は降るとも 万葉集 巻12−3032 あなたがいらっしゃるあたりを見ておりましょう 生駒山に 雲よ たなびかないで たとえ雨が降ろうとも 奈良の町の小高い所に登って西の方角を見ると…

百舌鳥 (モズ)

秋の野の 尾花が末(うれ)に なく百舌鳥(もず)の 声聞くらむか 片(かた)聞く吾妹(わぎも) 万葉集 巻10−2167 秋の野のススキの穂先で鳴くモズの声を 今頃聞いているでしょうか 独り聞くあなたは 平城宮跡を散策中、ふとヒバリの囀るような声を耳…

奈良の都

平城宮第二次大極殿跡から春日山を望む 秋されば 春日の山の 黄葉(もみち)見る 奈良の都の 荒るらく惜しも 大原真人今城(おほはらのまひといまき) 万葉集 巻8−1604 秋になると 春日山の紅葉を見るこの奈良の都の荒れていくのが惜しまれます *当時は…

奈良の大路

平城京朱雀大路と朱雀門 あをによし 奈良の大路(おおち)は 行きよけど この山道は 行きあしかりけり 中臣宅守(なかとみのやかもり) 万葉集 巻15−3728 奈良の大路は歩きやすいけれど、(越前への)この山道は歩き難いことでした 中臣宅守が、狭野弟…

鹿

さを鹿の 心相(あい)思ふ 秋萩の しぐれの降るに 散らくし惜しも 万葉集 巻10ー2094 牡鹿の心に思っている秋萩が、時雨が降って散ってしまうのは惜しいことです 万葉集には、鹿と萩を一緒に詠んだ歌が何首もあります。 時雨の降る日の午後、春日野を…

能登川

能登川の 水底(みなそこ)さへに 照るまでに 三笠の山は 咲きにけるかも 万葉集 巻10−1861 能登川(のとがわ)の水底さえ輝くほどに、三笠(みかさ)の山に花が咲いています * 春の雑歌、花を詠む の中の一首です。 能登川は、春日山と高円山の間の谷を…

白毫寺参道 (奈良市白毫寺町) 高圓(たかまと)の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人無しに 笠朝臣金村(かさのあそみかなむら) 万葉集 巻2−231 高円の野辺の秋萩は、空しく咲いては散っていることでしょうか ご覧になる皇子さまも、もう…

十五日(もちのひ)に 出でにし月の 高々(たかたか)に 君を坐(いま)せて 何をか思はむ 万葉集 巻12−3005 十五夜の月を望むように待ち焦がれていたあなたに、ここにこうしてお出で頂いて、他に何の思うことがありましょう。 10月3日、中秋の名月…

しば草 (チカラシバ)

畳薦(たたみこも) へだて編む数 通(かよ)はさば 道のしば草 生(お)ひざらましを 万葉集 巻11−2777 畳コモを、隔てをおいて繰返し繰返し編んで行くように、しばしばあなたがお通いになれば、道の芝草もはえなかったでしょうに *タタミコモは、い…

山高み 白木綿花(しらゆふはな)に 落ち激(たぎ)つ 瀧の河内(かふち)は 見れど飽かぬかも 笠朝臣金村 万葉集 巻6ー909 山が高いので、白い木綿花(ゆうばな)のようにたぎり落ちる滝は いくら見ても飽きることがありません *白木綿花とは楮(こう…

葛・くず

真葛原(まくずはら) なびく秋風 吹くごとに 阿太(あだ)の大野の 萩の花散る 万葉集 巻10−2096 葛の原をなびかせる秋風が吹くたびに、阿太の広い野の萩の花が散ります *阿太は、現在の奈良県五条市といわれています。 古くから、日本人の暮らしに…

秋草

秋草に 置く白露の 飽(あ)かずのみ 相見るものを 月をし待たむ 大伴家持 万葉集 巻20ー4312 秋草に置く白露のように、はかない逢う瀬でいつも飽き足らないけれど また来年の7月を待つことにしましょう * この歌は大伴家持の『七夕の歌八首』の中の…

月草・つきくさ(ツユクサ)

月草(つきくさ)に 衣は摺(す)らむ 朝露に ぬれて後には 移ろひぬとも 万葉集 巻7−1351 露草で衣は摺り染めにしよう。朝露にぬれた後に、たとえ色があせてしまうことがあっても。 朝夕涼風が頬をなで夏の終わりを感じるこの頃は、元気を取り戻した露…

川の瀬

川の瀬の 激(たぎつ)を見れば 玉をかも 散り乱れたる 川の常かも 間人宿禰 万葉集巻9−1685 川の瀬の激流を見ると、玉が散り乱れていると思われるほどに白い泡が立っている。この景色は、川のいつものことなのだろうか。 この夏一週間ほど滞在した増富温…

夏草・なつくさ

わが背子(せこ)に わが恋ふらくは 夏草の 刈り除(そ)くれども 生(お)ひ及(し)く如し 万葉集巻11−2769 あの人を恋する私の心は、刈りとっても次々に生えてくる夏草のようなものです。 一週間ほど、山梨県の増富温泉で静養してまいりました。 こ…

浜木綿・はまゆふ(ハマオモト)

み熊野の 浦の浜木綿(はまゆふ) 百重(ももへ)なす 心は思(も)へど 直(ただ)に逢はぬかも 柿本人麻呂 万葉集 巻4−496 熊野の浦に 幾重にも重なって咲いている浜木綿のように、私の心もあの女(ひと)への思いでいっぱいなのだけれど、直(じか)に逢…

合歓木・ねぶ(ネムノキ)

吾妹子(わぎもこ)が 形見の合歓木(ねぶ)は 花のみに 咲きてけだしく 実にならじかも 大伴家持 万葉集 巻8−1463 あなたの形見の合歓木(ねむ)の木は、花だけ咲いて、おそらくは実にならないかもしれません。 *巻8−1461 紀女郎(きのいらつめ)…

紫陽花・あぢさゐ

言問はぬ 木すら紫陽花(あぢさゐ) 諸茅(もろち)等(ら)が 練(ねり)の村戸(むらと)に あざむかえけり 大伴家持 万葉集 巻4−773 物を言わない木でさえ、色の変わりやすい紫陽花や諸茅(もろち)などの、一筋縄ではいかない心に欺かれたということ…

燕 (つばめ)

燕(つばめ)来る 時になりぬと 雁(かり)がねは 本郷(くに)思いひつつ 雲隠(がく)り鳴く 大伴家持 万葉集 巻19−4144 ツバメが来る夏になったと、雁は故郷を思いながら、雲に隠れて鳴いています。 *この歌は、「帰る雁を見る歌二首」と題された…

桑・くは (くわ)

筑波嶺(つくばね)の 新桑繭(にひぐはまよ)の 衣(きぬ)はあれど 君が御衣(みけし)し あやに着欲(きほ)しも 万葉集 巻14−3350 筑波山麓の桑の新芽で育てた繭の着物は着られなくても、あなたのお着物を着たいと無性に思うのです。(着物は持っ…

立ちて居て たどきも知らず わが心 天(あま)つ空なり 土は踏めども 万葉集 巻12−2887 立ったり坐ったり物が手につかず、私の心は上の空です。足は地を踏んでいるのですが *これは相聞歌の「正(ただ)に心緒(こころ)を述ぶる歌(他の事物に托さず…

時ごとに いや珍しく 咲く花を 折りも折らずも 見らくし好しも 大伴家持 万葉集 巻19ー4167 季節ごとにいよいよ珍しく咲く花を、手折っても手折らなくても,眺めているのは好いものです。 蝦夷延胡索(エゾエンゴサク)と蝦夷山桜(エゾヤマザクラ)が…

菖蒲草・あやめぐさ(ショウブ)

霍公鳥(ほととぎす) いとふ時なし 菖蒲草(あやめぐさ)鬘(かづら)にせむ日 此(こ)ゆ鳴き渡れ 田邊福麿(さきまろ) 万葉集 巻18−4035 ホトトギスよ。いつと云って嫌だと思う時はないけれど、同じ鳴くなら、アヤメグサを「かずら」にする日に こ…

山吹

蝦(かはづ)鳴く 神南備(かむなび)川に 影見え 今か咲くらむ 山吹の花 厚見王(あつみのおほきみ)万葉集 巻8ー1435 かじかの鳴く神南備川に影をうつして、今ごろは咲いていることでしょうか。山吹の花が。 神南備川(神名火川)とは、奈良県の飛鳥…

梓・あづさ(あずさ)

梓弓(あづさゆみ) 引かばまにまに 依(よ)らめど 後の心を 知りかてぬかも 石川郎女(いしかはのいらつめ)万葉集 巻2−98 梓弓を引くように私の心をを引いて誘うならば、あなたの意のままになりますけれど、その後のあなたのお心がわかりません。 *こ…

この花の 一枝(ひとよ)のうちに 百種(ももくさ)の 言(こと)そ隠(こも)れる おぼろかにすな 藤原廣嗣(ふじわらのひろつぐ) 万葉集 巻8−1456 この花一枝のうちに多くの言葉がこもっているのです。おろそかにしないで下さい。 *桜の花を娘子(…

青海原 (あおうなはら)

青海原(あおうなはら) 風波(かぜなみ)なびき 行くさ来(く)さ 障(つつ)むことなく 船は早けむ 大伴家持 万葉集 巻20−4514 青海原に風も波もなびいて,行きも帰りも障りなく、あなたの船は早く進むことでしょう。 *渤海大使 小野田守(おののた…

椿

わが門(かど)の 片山椿(かたやまつばき) まこと汝(な)れ わが手触れなな 土に落ちもかも 物部廣足(もののべのひろたり) 万葉集 巻20−4418 わが家の門に咲く片山椿よ、お前は私の手が触れないのに土に落ちてしまうのだろうか。 *この歌は、椿…