2008-01-01から1年間の記事一覧

清見の崎

廬原(いほはら)の 清見の崎の 三保の浦の 寛(ゆた)けき見つつ 物思(も)ひもなし 田口益人(たぐちのますひと) 万葉集 巻3−296 廬原の清見の崎から見渡される三保の浦の、ゆったりと、広々とした海を見ていると、もの思いなどなくなります。 *廬…

あな醜(みにく) 賢(さか)しらをすと 酒飲まぬ 人をよく見れば 猿にかも似る 大伴旅人 万葉集 巻3−344 ああみっともない。賢そうにして酒を飲まない人をよくよく見ると、猿に似ているよ この歌は、「太宰師大伴卿、酒を讃(ほ)むる歌十三首」の中の…

三日月

月立ちて ただ三日月の 眉根(まよね)掻(か)き 日(け)長く恋ひし 君に逢へるかも 坂上郎女(さかのうえのいらつめ) 万葉集巻6−993 新月の三日月のような眉を掻いたからでしょうか。 長い間恋しく思っていたあなたにようやくお逢いできました。 * …

黄葉(もみち)

經(たて)もなく 緯(ぬき)も定めず 少女(おとめ)らが 織れる黄葉(もみち)に 霜な降りそね 大津皇子 万葉集 巻8−1512 たて糸もよこ糸も定めずに乙女たちが美しく織った黄葉に、霜よ降らないでおくれ。 * 山の錦織り成す紅葉を、乙女たちが気まま…

こも (まこも)

草枕 旅にし居れば 刈薦(かりこも)の 乱れて妹に 恋ひぬ日は無し 万葉集 巻12−3176 旅に出ているので、心乱れて、妻を恋しく思わない日はありません これまで種々の万葉植物の写真を撮りましたが,「まこも」は未だまともに写したことがありませんで…

弓張月

天の原 ふりさけ見れば 白真弓(しらまゆみ) 張りて懸(か)けたり 夜路(よみち)は吉(よ)けむ 間人宿禰大浦(はしひとのすくねおおうら) 万葉集 巻3ー289 大空を振り仰いで見ると、白木の真弓を張ったような月が出ているので、夜道はよいことでしょ…

尾花 (すすき)

人皆は 萩を秋と言ふ 縦(よ)しわれは 尾花が末(うれ)を 秋とは言はむ 万葉集 巻10ー2110 人は皆、萩が秋の花だと言うけれど、そんなことはかまいません。私は尾花の穂先こそ秋の花だと言いましょう。 10月中旬に、箱根仙石原へススキ見物に行っ…

月讀(つくよみ)の 光りに来ませ あしひきの 山き隔(へな)りて 遠からなくに 湯原王 万葉集 巻4ー670 月の光を頼りにおいでください。山を隔てて遠いというわけではありませんから このところ秋晴れが続いて、お月様も綺麗ですね。 あるピクメイトの…

秋萩

五大堂明王院 鶉(うずら)鳴く 古りにし郷(さと)の 秋萩を 思ふ人どち 相見つるかも 沙彌尼 万葉集 巻8−1558 ウズラの鳴く古びた里に咲く秋萩を、仲の良い者どうしで一緒に見たことです。 秋が深まって、萩の花も殆んど散ってしまいました。 今年は…

月草・つきくさ (ツユクサ)

百(もも)に千(ち)に 人は言ふとも 月草の 移ろふ情(こころ) われ持ためやも 万葉集 巻12−3059 あれこれと人が言いましても、ツキクサのような変わりやすい心は、 私は持っておりません。 * ツユクサの花をしぼった汁は、古くから染料として使わ…

秋の田

吾妹子が 業(わざ)と造れる 秋の田の 早穂(わさほ)の蘰(かづら) 見れど飽かぬかも 大伴家持 万葉集 巻8−1625 妻が手ずから作った秋の田の早稲の穂のかづらは、いくら見ても見飽きることがありません。 * ある時、坂上大娘さんが、自分で種を蒔い…

をみなへし・女郎花

女郎花(をみなへし) 咲きたる野辺を 行きめぐり 君を思ひ出 たもとほり来ぬ 大伴宿禰池主(おおとものすくねいけぬし)万葉集 巻17−3944 オミナエシの咲いている野辺をめぐっていて、あなたを思い出し、私は廻り道をしてやって来ました。 爽やかな秋…

秋の風

額田王、近江天皇(あふみのすめらみこと)を思(しの)ひて作る歌一首君待つと 我が恋ひをれば わが屋戸(やど)の すだれ動かし 秋の風吹く 万葉集 巻 4−488 わが君をお待ちして恋しく思っていると、家の簾を動かして秋の風が吹いてきます。* 近江天…

等夜(とや)の野に 兎(をさぎ)狙(ねら)はり をさをさも 寝なへ児ゆゑに 母に嘖(ころ)はえ 万葉集 巻14−3529 (等夜の野で兎(うさぎ)を狙っているみたいに) ちっとも寝ない児だのに、そのことでお母さんに叱られて。 *「等夜の野に 兎狙はり」…

ハナゴケ

奥山の 磐(いは)に蘿(こけ)生(む)し 恐(かしこ)くも 問ひたまふかも 思ひ堪(あ)へなくに 葛井連廣成(ふじいのむらじひろなり) 万葉集 巻 6−962 恐れながら、いま歌を作れなどとおっしゃられても、十分考えることはできません。 * これは、宴…

キタキツネ

鐺子(さしなべ)に 湯沸かせ子ども 櫟津(いちひつ)の 檜橋(ひはし)より来む 狐に浴(あ)むさむ 長忌寸意吉麿(ながのいみきおきまろ) 万葉集 巻16−3824 さしなべにお湯を沸かしなさい、みなさん。 櫟津(いちひつ)の檜橋(ひばし)から、来む(コン…

エゾカンゾウ

忘れ草 我が下紐(したひも)に 着(つ)けたれど 醜(しこ)の醜草(しこくさ) 言(こと)にしありけり 大伴家持 万葉集 巻4−727 (恋の苦しみを忘れるという)忘れ草を私の下着の紐につけたけれど、何の役にも立たない、ひどい草です。(あなたのこと…

セグロカモメ

大海(おおうみ)の 荒磯(ありそ)の渚鳥(すどり) 朝な朝な 見まく欲しきを 見えぬ君かも 万葉集 巻11−2801 大海の荒磯の渚の鳥を朝な朝な見るように、朝な朝な顔を見たいと思うのに、 お出でにならないわが君ですこと。 ウトロ ウトロの海の、崖の…

知床峠の牡鹿

夏野ゆく 牡鹿(をしか)の角(つの)の 束(つか)の間も 妹が心を 忘れて思へや 柿本朝臣人麿 万葉集 巻3−502 夏の野を行く牡鹿の角は短いけれど、そのように短い間も、私を思う妻の心を 忘れていません。 *今日登場するのはエゾシカです。万葉集に詠…

蝦・かわづ (蛙)

エゾアマガエル 草枕 旅に物思ひ 我が聞けば 夕片設(ゆうかたま)けて 鳴く河蝦(かはづ)かも 万葉集 巻10ー2163 旅に出て、物思いしながら耳を傾けていると、夕方になって蛙が鳴いています。 *万葉集に詠まれている蝦とは、河鹿蛙(カジカガエル)…

あぢさゐ・あじさい

あぢさゐの 八重咲く如く 弥(や)つ代にを いませわが背子 見つつ偲はむ 橘 諸兄(たちばなのもろえ) 万葉集 巻20−4448 紫陽花の花が八重に咲くように、いつまでも栄えておいで下さい。私は立派なあなたを仰いで讃嘆いたしましょう。 わが家のアジサ…

いわたばこ

氣(いき)の緒に 思へるわれを 山ぢさの 花にか君が 移ろひぬらむ 万葉集 巻7−1360 私はあなたを命の綱と思っていますのに、あなたは、あのしぼみやすい山じさのように、気が変わってしまったのでしょうか。 * 山じさとは「イワタバコ」とする説と、…

真間の継橋

足(あ)の音(おと)せず 行かむ駒もが 葛飾(かづしか)の 真間の継橋(つぎはし) やまず通はむ 万葉集 巻14−3387 足音せずに行く馬があったらいいな。葛飾の真間の継橋を渡って、いつもあの娘のところへ通いたいな。 *女のところに忍び忍び通う男…

真間の井

真間の井 勝鹿(かづしか)の真間娘子(ままのをとめ)を詠む歌一首 短歌を并せたり鶏(とり)が鳴く 吾妻(あづま)の国に 古(いにしへ)に ありける事と 今までに 絶えず言ひ来る 勝鹿の 真間の手児奈が 麻衣(あさぎぬ)に 青衿(あをくび)着け 直(ひた)さ麻(を)…

真間の手児奈 (ままのてごな)  

手児奈堂 勝鹿(かずしか)の真間の娘子(おとめ)の墓を過ぐる時、山部宿禰赤人の作る歌一首并せて短歌古(いにしえ)に 在(あ)りけむ人の 倭文幡(しつはた)の 帯解きかへて 伏屋(ふせや)立て 妻問(つまどひ)しけむ 葛飾(かづしか)の 真間の手児…

沢渡温泉

左和多里(さわたり)の 手児(てご)に行き逢ひ 赤駒が 足掻(あがき)を速(はや)み 言問(ことと)はず来ぬ 万葉集 巻14−3540 さわたりの娘に行き逢ったけれど、私の赤駒の足が速いので、言葉もかけないで来てしまった。 *「左和多里」については…

卯の花・うのはな

] 五月山(さつきやま) 卯の花月夜(つくよ) 霍公鳥(ほととぎす) 聞けども飽かず また鳴かぬかも 万葉集 巻10−1953 五月の山に卯の花が咲いて、月の光が美しい夜、ホトトギスの声をいくら聞いても飽きることはありません。また鳴かないかなぁ。 三…

横須賀しょうぶ園の藤

藤波の 咲き行く見れば 霍公鳥(ほととぎす) 鳴くべき時に 近づきにけり 田邊史福麿(たなべのふひとさきまろ) 万葉集 巻18−4042 藤の花が次々に咲いてゆくのを見ると、ホトトギスが鳴き始める時が近づいてきたなぁと思います。 今日、曇り空ながら…

エビネ

春の花 今は盛りに にほふらむ 折りてかざさむ 手力(たじから)もがも 大伴家持 万葉集 巻17−3965 春の花が今は盛りと咲いていることでしょう。それを手折って髪にさす手の力があればよいのですが・・・ * 家持さんはこの時病気だったようです。「春…

亀・かめ

新宿御苑で さ丹(に)つらふ 君が御言(みこと)と 玉梓(たまづさ)の 使も来ねば 思ひ病む 我が身ひとりぞ ちはやぶる 神にもな負(おほ)せ 占部(うらべ)坐(ま)せ 亀もな焼きそ 恋ひしくに 痛き我が身そ いちしろく 身に染(し)み透り 村肝(むらきも)の …