十五日(もちのひ)に 出でにし月の 高々(たかたか)に 君を坐(いま)せて 何をか思はむ
万葉集 巻12−3005
十五夜の月を望むように待ち焦がれていたあなたに、ここにこうしてお出で頂いて、他に何の思うことがありましょう。
10月3日、中秋の名月の晩に、奈良の興福寺で『塔影能』の催しがありましたので
行って参りました。
心配された雨も上がり、東金堂の前に設えられた仮設の能舞台で
能 『清経』 シテ 友枝昭世 ツレ 長島茂
ワキ 福王茂十郎
笛 森田保美 小鼓 成田達志 大鼓 谷口有辞
地謡 粟谷能夫 出雲康雅 粟谷明生 高林呻二 内田成信 粟谷充雄
の演目が仏様に献じられたのでした。私共はそれを陪観させて頂いたというわけです。
能が終わって五重塔を見上げますと、ちょうど中秋の名月が雲間から出たところで、
塔の上に煌々と輝き、それはそれは清らかな眺めでした。
「これは写さなくっちゃ」とカシャカシャ何回もシャッターを押したのですが、全部ブレてピンボケで止む無く消去、でも記念に・・・と未練がましく一枚だけ残した『五重塔と細長い望月』が冒頭の写真です。
時を同じくして、猿沢の池では『采女まつり』が行われ、これは、龍頭鷁首の管絃船が雅楽を奏でながら池をめぐり、花扇を池に投じる雅なお祭りなのだそうですが、能がお仕舞いになる頃は采女まつりもすでに終わっていて、残念ながら見ることはできませんでした。
池の周りには屋台が並び、随分と賑やかで、采女神社で買い求めたお月見用の「ススキと花」の束を持ってそぞろ歩く人もいて、関東人の目にはとても珍しく映りました。
龍頭鷁首の飾りはもう解体作業が始まっていましたので、鷁首と月を大急ぎ写したのが左の写真です。
十六夜の月
宿の屋上テラスに設けられた観月席で。大気が澄んで美しいお月さまでした。