亀・かめ


                               新宿御苑


さ丹(に)つらふ 君が御言(みこと)と 玉梓(たまづさ)の 使も来ねば 思ひ病む 我が身ひとりぞ ちはやぶる 神にもな負(おほ)せ 占部(うらべ)坐(ま)せ 亀もな焼きそ 恋ひしくに 痛き我が身そ いちしろく 身に染(し)み透り 村肝(むらきも)の 心砕けて 死なむ命 急(にはか)になりぬ 今更に 君か吾(わ)を喚(よ)ぶ たらちねの 母の御言(みこと)か 百足(ももた)らず 八十(やそ)の衢(ちまた)に 夕占(ゆふけ)にも 卜(うら)にもそ問ふ 死ぬべきわがゆゑ


          車持娘子(くるまもちのおとめ) 万葉集 巻16−3811




美しいあなたからのお言葉です、と伝える使いも来ないので、一人思い悩んでいる私です。
この病を神様のせいにして下さいますな。卜者を招いて、亀の甲羅を焼いて占ったりもしないで下さい。(病の原因は私には分っているのですから)
あなたがずっと恋しくて、身も心も苦しくて,病み悩んでいる私なのです。恋しさに心が砕けて死にそうです。
今更に、あなたが私のことを呼んで下さるのでしょうか。それとも母が夕方街かどで、神意をうかがってくれるのでしょうか。もう死んでしまう私ですのに。




                                 新宿御苑


車持娘子の夫の君は、何年も妻の元を訪れませんでした。娘子は恋しさに心を病み、病に臥し、日増しに病が重くなり、ついに危篤になってしまいました。
夫の君が知らせを受けて訪ねて来ますと、娘子はすすり泣きながらこの歌を口ずさみ、間もなく亡くなったと云うことです。


*  亀卜は、亀の甲羅を焼き、そのひび割れによって吉凶を占うのだそうです。


蛇足 : 歌の中に「玉梓」という言葉がありますが、万葉の時代、文を届ける使者は、梓の木の杖を持っていたことから「玉梓の使い」と云われていました。この「玉梓の使い」が転じて、恋文そのものが「玉梓」と云われるようになりました。
ところで、カラスウリを玉梓とも云うそうです。その訳は、カラスウリの種の形が、結び文に似ているから。



この種は、伊豆湯ヶ島国民宿舎「木太刀荘」で、お守りとして頂いたものです。打出の小槌にも似ているので、お財布に入れておくとお金が増えるそうな・・・残念ながら未だ効果なし・・・


昨年、自宅付近で見つけたカラスウリの花と実