秋の田

秋の田の 穂向きの寄れる こと寄りに 君に寄りなな 事痛(こちた)かりとも 万葉集 巻2−114 但馬皇女 秋の田の稲穂の向きが同じ方向に寄っているように、ただひた向きにあなたに寄り添っていたい。 たとえ世間の噂が酷くても。 * 但馬皇女(たじまのひめ…

つきくさ (ツユクサ)

鴨頭草(つきくさ)に 衣(ころも)色どり 摺らめども 移ろふ色と いふが苦しさ 万葉集 巻7ー1339 露草で衣を摺り染めにしようと思うけれど、色が変わりやすいと聞くにつけ心が苦しいのです。 (あの人の申し出を受け入れようと思うけれど、気の変わり…

萩の花

わが屋戸(やど)の 萩の花咲けり 見に来ませ 今二日ばかり あらば散りなむ 万葉集 巻8−1621 巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそをとめ) ようやく陽射しも和らぎ、心地よい秋風に誘われて鎌倉散歩してきました。 萩の花の綻び具合はどんなかしらん、と大…

くず (葛)

水茎(みづくき)の 岡の葛葉を 吹きかへし 面(おも)知る子等が 見えぬ頃かも 万葉集 巻12−3068 岡の葛の葉を風が吹き返して裏葉の白さが目に付くように、はっきりと顔を見知っているあの子の姿が見えないこのごろです。 くず マメ科 食用 根から澱…

九月(ながづき)の雨

九月(ながづき)の 時雨の雨の 山霧の いぶせき吾が胸 誰(たれ)を見ば息(や)まむ 一に云はく、十月(かむなづき)時雨の雨降り 万葉集 巻10−2263 九月のしぐれの雨が山霧となって晴れないように、鬱屈した私の胸は誰を見たらば安まるでしょう。 …

いはゐつら (スベリヒユ)

上毛野(かみつけの) 可保夜(かほや)が沼の いはゐ蔓 引かばぬれつつ 吾(あ)をな絶えそね 万葉集 巻14−3416 東歌 上野(かみつけ)の可保夜(かほや)が沼に生えているイハイツラが引けばゆるんで抜けるように 私との仲が、きれてしまわないよう…

うつせみ (空蝉)

うつせみの 常無き見れば 世のなかに 情(こころ)つけずて 思ふ日そ多き (一に云はく、嘆く日そ多き) 万葉集 巻19−4162 人生の無常さを見ると、人の世の事に心を染める気持ちにならず、物思いする日の多いことです。 今夏、お隣さんの枇杷の木にツ…

草深百合

道の辺の 草深百合(くさふかゆり)の 後(ゆり)にとふ 妹が命を われ知らめやも 万葉集 巻11−2467 道のほとりの茂みに咲いている百合のように、ユリに(後で)、というあの娘の命を私は知っているだろうか。 知りはしない。(だから早く逢いたいので…

紅の花 (くれなゐのはな)

紅(くれなゐ)の 花にしあらば 衣手に 染め付け持ちて 行くべく思ほゆ 万葉集 巻11−2827 あなたが紅の花だったなら、袖に染め付けて持ってゆきたいと思うのです。 くれなゐ(ベニバナ) キク科 名は、呉の国から渡ってきた藍 「呉の藍(くれのあゐ)…

ひぐらし

夕影に 来鳴くひぐらし 幾許(ここだく)も 日毎に聞けど 飽かぬ声かも 万葉集 巻10ー2157 梅雨が明け、わが家の庭にもヒグラシがやって来て涼やかな声を聞かせてくれるようになりました。 ある日の夕食時、いきなりカナカナと甲高い声が近くに聞こえ…

桑 (くわ)

たらちねの 母が園なる 桑すらに 願へば衣(きぬ)に 着すとふものを 万葉集 巻7−1357 母の畑に植えてある桑でさえ、願えば絹の衣を作って着せてくれるというのに。 (どうしてあなたを自分のものにできないのでしょう。) もう二週間も経ってしまいま…

このゆふべ 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ船の 櫂(かい)の散沫(ちり)かも 万葉集 巻10−2052 7月7日の今宵降って来る雨は、彦星が急いで漕ぐ舟の櫂(かい)のしぶきでしょうか。 朝からしとしとと静かに降る雨を眺めながら、「なんとか梅雨らしい写真…

楮(こうぞ)  万葉名 たく

𣑥繩(たくなは)の 永き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲れこそ 万葉集 巻4−704 巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそをとめ) 𣑥繩のように長い命を欲したのは、絶えずあなたを見たいと思えばこそです。 * 𣑥繩とはコウゾでなった縄のことです。コウゾ(…

♪踊る阿呆に見る阿呆♪

6月6日は上天気。 ツレは自分の稽古事の発表会で朝から出かけて行き、こんな爽やかな日に一人で家にいるのも勿体ないので 菖蒲園に行ってみようと思いたちました。 駅前の菖蒲園行きバス停の列最後尾に並びますと、前の女性が振り返って「どちらまで?」 …

咲く花は

咲く花は 過ぐる時あれど 我が恋ふる 心のうちは 止む時もなし 万葉集 巻11ー2785 咲く花は散ってしまう時がくるけれど、 私があなたを恋しく思う気持ちは止む時がありません。 放ったらかしの庭にも、初夏ともなれば次々に花が咲いて目を楽しませてく…

卯の花

皆人の 待ちし卯の花 散りぬとも 鳴く霍公鳥 われ忘れめや 万葉集 巻8−1482 大伴清繩(おおとものきよつな) 皆が待っていた卯の花が散ってしまっても、そこに来て鳴くホトトギスを私は忘れたりしません。 * * * 今年は卯の花の開花がいつもより早かっ…

久木 (あかめがしわ)

去年(こぞ)咲きし 久木(ひさき)今咲く いたづらに 地(つち)にや落ちむ 見る人なしに 万葉集 巻10−1863 去年咲いた久木の花が今咲きました。けれど、むなしく地に落ちるのでしょうか。見る人もなくて。 アカメガシワ (古名 久木) トウダイグサ…

春霞 流るるなへに 青柳の 枝くひ持ちて 鴬鳴くも 万葉集 巻10−1821 春霞が流れる中に、青柳の枝ををくわえて鶯が鳴いています。 最初の二枚は4月2日夕方に写した鎌倉の源氏池の柳です。 この日、しきりに鳴くウグイスの声を聴きましたが、その姿を…

遊びをせんとや

遊びをせんとや生れけむ 戯(たはぶ)れせんとや生れけん 遊ぶ子供の声聞けば 我が身さえこそ動(ゆる)がるれ 梁塵秘抄 359 春の陽射しに青空が爽やかな或る日、近所の公園の桜も見頃になったかしらん、と行ってみました。 中々よい咲き具合。桜の下で幼…

自然教育園

近くまで出かけた序に、ちょこっと自然教育園を覗いてみました。 写真をアルバムにしましたのでお気が向きましたらこちらからご覧ください。 国立科学博物館付属 自然教育園 (東京都港区白金台)自然教育園の生い立ちは、今から400〜500年前の豪族の…

花咲けるかも

妹が手を 取りて引き攀(よ)ぢ ふさ手折り わが挿頭(かざ)すべき 花咲けるかも 万葉集 巻9ー1683 妻の手をとって引き寄せるように掴んで手折り、私の髪飾りにするように花が咲いたことだ。 * 舎人皇子(とねりのみこ)に獻る歌二首のうちの一首です…

春雨

春雨に 衣はいたく 通らめや 七日し降らば 七日来じとや 万葉集 巻10−1917 春雨で衣がそれほど濡れ通るものでしょうか。 (たいして濡れもしないのにお出でにならないとは) もし七日降ったら七日来ないつもりなの? * 春雨を口実に訪ねて来ない人に…

梅の花

梅の花 夢(いめ)に語らく 風流(みやび)たる 花と我(あれ)思(も)ふ 酒に浮かべこそ 万葉集 巻5ー852 大伴旅人 梅の花が夢に出てきて語ることには 私は風雅な花だと思う、どうか酒杯に浮かべて欲しい と。 梅の花は畑毛温泉の大仙家さんのお庭に咲…

霞む富士山

霞ゐる 富士の山傍(やまび)に わが来なば いづち向きてか 妹が嘆かむ 万葉集 巻14−3357 霞がかかっている富士山の麓に私が行ったら、妻はどちらを向いて嘆くのでしょうか。 伊豆の畑毛温泉から望む富士山です。 一枚目、霞む富士山を写したのですが…

わが背子を 大和へ遣りて まつしだす 足柄山の 杉の木の間か 万葉集 巻14−3363 夫を大和へ遣って私は待つだけなのです。足柄山の杉の木立の間に。 * * * 熱海から箱根に廻って帰宅する日、宮ノ下から見上げる空は雲一つない快晴でしたので、このま…

梅と桜

梅の花 咲きて散りなば 桜花 継ぎて咲くべく なりにてあらずや 万葉集 巻5−829 薬師張氏福子 (くすしちょうしのふくし) 梅の花が咲いて散ったならば、すぐ続いて桜の花が咲くようになっているではありませんか。 * 天平二年正月十三日に、大宰府の帥…

椿

あしひきの 八峰(やつを)の椿 つらつらに 見とも飽かめや 植ゑてける君 万葉集 巻20−4481 大伴家持 つくづく見ても見飽きることがありましょうか。この椿を、そしてこの椿お植えになったあなたを。 * 大原真人宅での宴の折に家持さんが、真人邸の庭…

迎春

あけましておめでとうございます 2015年 元旦

やぶそば

先日、京橋まで出かけた序に野次馬根性を発揮して、再建開店した神田の藪蕎麦に行ってみました。 行列は避けたいので昼食時をずらし、「三時のおやつ」の頃合いに入りましたが、店内はほぼ満席。 「いらっしゃいまし〜」と空いていた小さな四角いテーブル席…

建長寺

鐘つけば 銀杏ちるなり 建長寺 漱石 二ヵ月ほど前の新聞のコラムで、夏目漱石の「鐘つけば・・」の一句が紹介されました。 かの、余りにも有名な正岡子規の 柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺 は、この漱石の句を踏まえて詠んだもの という内容でした。 へぇ〜〜…