ちち (イヌビワ)


                              撮影場所 小石川植物園 


大君の 任(ま)けのまにまに 島守に わが立ちくれば ははそ葉の 母の命は み裳の裾 つみ挙(あ)げ掻き撫で ちちの実の 父の命は 托綱(たくづの)の 白鬚(しらひげ)の上ゆ 涙垂り 嘆き宣賜(のた)ばく 鹿児(かご)じもの ただ独りして 朝戸出(あさとで)の 愛(かな)しきわが子 あらたまの 年の緒長く 相い見ずは 恋しくあるべし 今日だにも 言問いせむと 惜しみつつ 悲しび座(ま)せ・・・


                        大伴家持 万葉集 巻20−4408


天皇の任命により防人として出立する時、母上は裳の裾をつまみあげて私を撫で、 父上は白鬚の上に涙をこぼしし嘆いて仰言るには、「鹿の児のように、ただ独りで朝戸を開いて出かける、いとしいわが子よ。年長く逢わなければ恋しいことだろう。せめて今日だけでも話がしたい」と別れを惜しみつつ悲しんでおられるので・・・


*「ちち」は「イチョウ」とする説もあります。


                   くすりの博物館 万葉集の植物