撮影場所 小石川植物園
大君の 任(ま)けのまにまに 島守に わが立ちくれば ははそ葉の 母の命は み裳の裾 つみ挙(あ)げ掻き撫で ちちの実の 父の命は 托綱(たくづの)の 白鬚(しらひげ)の上ゆ 涙垂り 嘆き宣賜(のた)ばく 鹿児(かご)じもの ただ独りして 朝戸出(あさとで)の 愛(かな)しきわが子 あらたまの 年の緒長く 相い見ずは 恋しくあるべし 今日だにも 言問いせむと 惜しみつつ 悲しび座(ま)せ・・・
天皇の任命により防人として出立する時、母上は裳の裾をつまみあげて私を撫で、 父上は白鬚の上に涙をこぼしし嘆いて仰言るには、「鹿の児のように、ただ独りで朝戸を開いて出かける、いとしいわが子よ。年長く逢わなければ恋しいことだろう。せめて今日だけでも話がしたい」と別れを惜しみつつ悲しんでおられるので・・・
*「ちち」は「イチョウ」とする説もあります。
くすりの博物館 万葉集の植物