信濃なる 千曲(ちぐま)の川の 細石(さざれし)も 君し踏みてば 玉と拾はむ
万葉集 巻14−3400
信濃の千曲川の小石だって、あなたが踏まれたのなら、玉として拾いましょう。
止せば良いのに、残暑厳しい八月の終わりに、信州は戸倉上山田温泉に出かけました。
わが家では夏、甲斐の山奥の湯治場を訪れるのが恒例になっておりましたが、今年は殊の外の異常気象で行きそびれてしまい、いっそのこと知らない温泉にでも行ってみようか、長野県なら此処よりいくらか涼しいかも・・・
ところがどっこい、暑かった! 「これでもいくらか凌ぎ易くなったんですよ」と宿の人は言ってましたが。
紫外線が強く、うっかり袖をたくし上げたまま歩き回ったもので、皺々の肌が日に焼けて、益々シワシワになってしまいました (-_-;)
↑ 万葉公園
千曲川に架かる万葉橋の傍の「万葉公園」と称する一角に、万葉歌だの姨捨山を詠んだ歌や句の碑が沢山並んでいて、その中に、ひと際見事な石の「千曲川の万葉歌碑 犬養孝書」が建っていました。
なんでも、この万葉公園の竣工式に犬養先生も招かれ、その折に泊まった宿にこの書を残されたそうです。その後、宿の主が庭に歌碑を建立し、訪れる人々に公開しておられたと云う事ですが、廃業した為ここに移されたのでしょうか?
この温泉場は長いこと、男性客中心の歓楽温泉郷として賑わってきたものの、近頃は世間の行楽の形が変化して客足が落ち、些か侘しげな空気が漂っていました。また、長野オリンピックの時に、高額投資をして建物や客室の改装をした宿の多くがその後経営不振に陥り、廃業したり、大手の企業に買い取られたり・・・大幅に旅館の数が減ってしまったそうです。ある老舗旅館のご主人の、痛ましい最後のお話も聞きました。
単純硫黄泉の良質で豊富な湯を活かして、誰もが寛ぎ憩える優しい温泉地に再生して欲しいものです。