春日野




春日野の 浅茅(あさぢ)が上に 思ふどち 遊ぶこの日は 忘らえめやも


  万葉集 巻10−1880



春日野の浅茅の上で仲よしたちが遊ぶこの日は忘れられないでしょう。



春日野とは、現在「奈良公園」と呼ばれる一帯のことだそうです。







         




昨年、興福寺南円堂創建1200年を記念して公開された
南円堂本尊 不空羂索観音座像を拝観に奈良へ行った時の古いお話です。
全く意識の外でしたが偶然にも薪御能の日で、思い起こせばその前年にも薪御能の日に
奈良にいたのでした。二年続けて運が良かった!
平成25年5月17日、春日大社で「咒師走り(しゅしはしり)の儀」が行われると知り
参拝に出かけました。(咒師とは、大寺で密教の行法を担った僧侶のこと)
着いた頃もう「翁」が始まっていて、境内は観光客がいつもの通り行き交い騒々しく
音はよく聴こえない、舞台の様子もよく分からない状態でしたが
よくよく見ると翁が三人立つ、私には初めての珍しい「翁」が演じられておりました。


はっきり見えないけれど気配でシャッターを押してトリミングした写真です。


翁                                   

三番三 


実際はこんな感じで観て(聴いて?)ました。神様に奉納しているのですから不平は言えません。


勤め終えて高揚感の残るお顔で舞殿を降りる役者さん方。

翁  金春穂高


千歳 延命冠者  茂山正邦


三番三  大藏千太郎




さて、こちらは平成24年5月19日、春日若宮での御社上がりの儀の「春日龍神」アイ 末社の神です。  →
この前夜、興福寺登大路園内で「南大門の儀」が行われているところに図らずも通りかかり、地謡の後方が無料観覧席らしいので覗いてみると、能「加茂」の後場が演じられておりました。
この後 「火入れ」 狂言「伯母が酒」 能「頼政」と続きますが、5月の奈良の夜風は冷たく、とても長時間立っていられないので、「加茂」のみ終わりまで垣間見て宿に戻ったのでした。
地元の常連とおぼしき、無料席の良い場所に陣取る方々は
折り畳み椅子、パーカーやショールなど準備怠りなく、薪御能はこうやって観るものなのか!と、これもお勉強です。


←こちらが無料席






















『それにしても奈良は太っ腹だね。明日は若宮で「春日龍神」だそうだから行ってみようか』
てっきりこちらにも無料席が用意されているものと思い込んで出かけましたが、そうは問屋が卸さなかった。
仕方なく、春日の森に響き渡る囃子の音を心地よく聴きながら裏の方へ回ってみますと、小さなテント小屋があり
アイ「末社の神」が出を待っているところでした。
そこへ外国の団体さんがガヤガヤとやって来て、日本の伝統芸能者の姿を見つけ大喜びしてお喋りの花が咲きます。
そんな中で気持ちを集中させているかに見えた役者さんが、クルリとこちらを向いて手を振りました。
『おォ〜』と外国の皆さんも手を振って応えました。心温まる一瞬の光景でした。
遠来のお客様には、日本の旅の忘れられない思い出のひとコマになったでしょうか。



「春日龍神」 アイ 末社の神